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大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)175号 決定 1958年7月30日

抗告人(申請人) 新聞印刷株式会社

相手方(被申請人) 新聞印刷労働組合

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は、「原決定を取消す。相手方は原決定添付目録記載の抗告会社構内に立ち入つてはならない。相手方は抗告会社役員、相手方に所属しない抗告会社従業員及び抗告会社と取引関係に立つ第三者が右構内に出入し、若しくは右構内において操業し、又は物品の搬出入をすることを妨害してはならない。」との裁判を求め、抗告理由は、抗告人の第一審における主張及び別紙第一、第二抗告理由書記載のとおりである。

第一抗告理由書一、二、第二抗告理由書一ないし四について

労働組合のストライキ中でも、使用者である会社が組合の統制外にある従来の従業員を使用してその操業を続行することは、それが著しい協約違反又は信義則に反する行為と認められない限り権利の行使として許される。しかし、労働組合側においても、これに対し集団的ピケッティングによりストライキ中の会社の操業に関与しようとする者に対し言論による説得又は団結による示威の方法によつてこれを阻止し、会社の業務運営に打撃を加えることは、争議権行使の正当な範囲に属するものと解すべきであるが、労働組合のする争議行為の態様は、争議行為に対し使用者の施す対抗策に対応して相対的に流動するものであるから、この具体的な態様を無視して固定的に争議行為の手段、方法の正当性の範囲を限定して観念しようとすることは、わが国の労働組合の現状にかんがみて往々労働組合側にのみ不利益を強いる結果となり、労使対等の立場を失わせ、労働組合の団結権を不当に圧迫するおそれが多分にあるといわなければならない。従つて、実力行使の許される限度について固定的な限界を定めることは不可能であつて、個々の具体的な場合に応じてその限界が定めらるべきである。このことは、争議行為の補助的手段(場合によつては重要な手段)であるピケッティングにおいても同様である。ピケッティングにおける実力行使としてスクラムが行われるのが通常であるが、スクラムは、それが説得のためであり、団結の威力を示す限度においては、暴力の行使(労組法第一条第二項但書)とはならず、適法であることはもとより、スト破りを受けとめる限度すなわち消極的、防衛的なものである限り違法とすることはできない。右のような消極的、防衛的なピケッティングは許されるが、相手方の身体を捕えたり引張るような積極的な実力の行使は、暴力の行使となる場合があり、違法となる場合があるが、この場合どの程度の行為がどのような場合に許されるかは、結局具体的場合に応じて判断されるべき問題であつて、使用者側のスト破り又はピケ突破の挑発的行為があり、これに対抗してピケラインを防衛する限度において必要な最少限度の実力行使は、やむを得ないものとして許容され、違法性がないものと解すべきである。次に、使用者は、ストライキ中でも原則として操業を継続する権利を有することは抗告人主張のとおりであり、この場合ストライキに参加していない非組合員の従業員を使用してその固有の仕事につかせることは固より自由である。しかし、右非組合員の大部分が、組合の団結力の弱化を目的とする使用者の行為に応じて組合を脱退し、このことがストライキの一原因となつているような特別の事情のある争議において、使用者が右非組合員を使用して操業を継続しようとし、その為に労働者の団結権を侵害する危険性のあるような特段の事由がある場合(原決定の認定するところにより明らかなように本件の場合はこれに当る。)には、労働組合が、その団結力を防衛するため必要な最少限度においてスクラム等の実力行使により非組合員の入門を阻止することは、やむを得ない行為として違法性のないものと解するを相当とする。原審は、争議の経過、争議行為の現況を、原決定第二、一及び二の各項記載(原決定二枚目表二行目から五枚目裏五行目まで。)のとおり一応認定し、右争議行為の当否及び非組合員が抗告会社構内に出入し、又は右構内において操業し、若しくは物品の搬出入をすることを妨害してはならない旨の仮処分の必要性につき、原決定第三、三、(1)のとおり判断し、右仮処分の必要性がないものとしたのであつて、記録中の疎明資料により原審が一応認定した右事実(但し、組合員の数については後記のように訂正する。)は疎明されるし、右事実に基く原審の右判断(但し、原決定第二、三、(1)、(ハ)に「非組合員が一部組合員の職場を代置するという不当行為に出でざるを得ないのみならず」とあるのを除く。)は、右「非組合員が一部組合員の職場を代置するという不当行為に出でざるを得ない。」との判断を除いても、その結論には影響がなく、その用語が妥当を欠く点がないことはないが、結局ピケッティングによる実力行使の限界に関する前記理由と同趣旨でなされたものであることが明らかであり、固より正当といわなければならない。抗告人は、「原決定は、昭和三一年四月頃に殆んど全従業員が組合に加入していたと認定しているが、当時の従業員は一〇六名で、内組合員は八二名で非組合員は二四名であつた。昭和三一年五月職階制を採用したため、組合を脱退したものは五名で、うち部課長は三名にすぎない。抗告人が職階制を採用したのは、職場の秩序維持を目的としたもので、相手方の弱化をはかるためではない。」と主張するが、相手方提出の昭和三三年五月二〇日附北尾勇治郎作成の陳述書(記録第九九丁から一〇二丁まで。)と原審における相手方代表者本人審尋の結果によると、相手方組合の組合員は、昭和三〇年一一月組合結成当時は六二名、昭和三一年四月の春闘当時は八二名であつたが、同年五月一日職階制が実施されると、同月四日頃部課長となつたもの一二名が組合を脱退したこと、右職階制の採用は相手方組合の分裂を図り組合に対抗する目的でなされたものであること、その後も組合からの脱退者があり、本件争議に突入した当時においては、組合員は四五名となつたことを一応認めることができる。右認定に反する抗告人提出の疎明資料は、真実に符合しないものと認められるから採用しない。そうすると、昭和三一年四月当時相手方組合の組合員数が前記のとおりであり、原決定の認定するように抗告会社の殆んど全従業員でなく、また職階制の採用の目的の一が職場の秩序維持にあつたとしても、職階制の実施が相手方組合の分裂を目的とするものであると認定することを妨げるものではない。抗告人は、原決定のあつた後においても、非組合員等は、抗告会社の構内に入ることを阻止され、特に昭和三三年六月二三日には、相手方の実力行使により入場を阻止されたと主張し、抗告人提出の疎明資料によると、右事実を一応認めることができるが、右は前記理由により争議行為として違法なものと認むべき程度のものでないと解するのが相当であるから、これを以て前記仮処分の必要性があるものとすることはできない。以上の次第であるから、抗告人の主張はいずれも理由がない。

第一抗告理由書三について

当裁判所が、抗告会社の役員、抗告会社と取引関係に立つ第三者が抗告会社構内への出入等の妨害禁止の仮処分を許容すべきでないとする理由は、次のとおり附加する外、原決定の第二、三、(2)記載の理由と同一であるから、これを引用する。抗告人は、抗告会社の役員、抗告会社と取引関係に立つ第三者に対し現在妨害がなくても、操業開始の場合には妨害が行われるであろうことは明白であると主張するが、これを推認するに足る疎明はなく、かえつて、原決定第二、三、(2)により明らかなように現在右の者等に対する妨害がないのであるから、特別の事情の認められない限り、操業開始の場合に妨害されるおそれがないものと推認すべきである。従つて右主張は採用できない。そうすると、右と同趣旨の下に抗告会社の役員、抗告会社と取引関係に立つ第三者が抗告会社構内への出入等の妨害禁止を求める仮処分はその必要性がないとしてこれを許容しなかつた原決定は相当であつて、抗告人の主張は理由がない。

第一抗告理由書四について

甲第一三号証によると、昭和三三年五月一四日抗告会社が相手方に対し事業場を閉鎖し作業所への相手方組合員の立入禁止を通告したことを一応推認することができる。しかし、労働者の争議行為に対応して使用者がその主張を貫徹する目的でする作業所閉鎖(ロックアウト)は、使用者側の争議行為(労調法第七条参照)であつて、企業または事業の存続、工場施設等の安全を危険におとしいれ使用者に著しい損害を及ぼすような労働者の争議行為が現存し、または右のような争議行為の生ずるおそれがあることが明白である場合等に許されるものと解するを相当とする。従つて、使用がロックアウトをする必要も利益もないのにみだりにこれを実施することは違法であるといわなければならない。本件につきこれをみるに、記録にあらわれた疎明資料により当裁判所の一応認定した争議行為の実状は、原決定のあつた後においても相手方は抗告会社構内への出入口附近にピケラインを張り非組合員の入場を阻止している(このことが違法でないことは既に説明したとおりである。)と附加する外、原決定の第二、二、争議行為の現況の項記載のとおりであるからこれを引用する。右事実によると、相手方が争議に入つてから抗告会社の出入口の門内外にピケラインを張り、組合員がその構内の空地に待機しているが、会社役員非組合員である保安係員の構内への出入は何ら妨げられず自由であり、構内各建物の鍵は右保安係員が保管しているのであるから、抗告会社構内、作業所の占有が排他的に相手方に移つておらず、ただピケラインの延長として抗告会社の構内のうち操業に関係のない前庭を中心とした敷地の一部(但し、闘争本部は男子組合員の宿舎に充てられた部屋を使用している。)を占拠しているのみであり、相手方に抗告会社所有建物、機械等を破壊したり、または破壊しようとする意図もなく、右建物、機械等を占拠して抗告会社の企業の存続を危険におとしいれ、抗告会社に著しい損害を及ぼすべきおそれは現存しないことが明らかである(相手方が争議に入つてから現在迄実施しているピケッティングが既に説明したように違法でない以上、これによつて抗告会社の被る損害は争議行為により通常生ずる損害であるから、抗告会社の甘受すべきものである。)。そうすると、抗告会社が前記のようにしたロックアウトは、前記理由により違法であるといわなければならない。元来組合員は抗告会社の従業員として抗告会社の構内への立入を許されるのであり、その所持品置場も構内に設けられているのであるから、たまたま争議により抗告会社の指揮命令権を離れても、前記ロックアウトが適法でなく、相手方の実施しているピケッティングが違法でないこと前記のとおりであるとすれば、ピケッティングのための構内一部占拠は違法ということはできない。そうすると、現在抗告会社所有の工場建物、その敷地の所有権、占有権が不法に侵害されまたは不法に侵害されるおそれはないものといわなければならない。従つて、抗告会社が、相手方に対し抗告会社構内への立入禁止を求める仮処分申請は、その必要性を欠くから許さるべきでない。右と趣旨は異るが、右仮処分申請を許容しなかつた原決定は結局相当であるから、抗告人の主張は理由がない。

第二抗告理由書五について

労使間の粉争は、当事者間の自主的解決を本旨とするものであり、ただ使用者側の不当違法な行為、労働組合側の違法な争議行為がある場合にこれを速やかに差し止めることが司法権の役目であることは、抗告人所論のとおりである。しかし、司法権の行使により勤労者に保障された団結する権利、団体行動の権利が阻害されてはならず、労働争議に対する不当な干渉となるような司法権の行使は厳につつしまなければならない。このことは、労働争議偏重でなく、憲法により保障された勤労者の団結権、団体行動権を尊重する所以である。本件仮処分申請は、既に説明したところにより明らかなようにいずれもその必要性がないのであるから却下さるべきであり、原決定が一部その理由を異にするが、右申請を却下したのは結局相当であつて、これがため司法権が有名無実となるということはできない。

以上の次第で、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法第四一四条第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

(別紙)

第一抗告理由書

一、原決定が争議行為の当否について

「組合が大門を閉してその開扉を阻止し出入口内外のピケラインにおいて人垣を作り特に開かれたままの小門(幅二尺位)附近は人垣の重囲を強化した上スクラムを組み、ピケラインを突破して入場せんとする非組合員を押返したりして事実上その通行を阻止していること、特に二九日は、会社の大門より入込んで工場入口に殺到した非組合員(二〇数名)をスクラムで阻止した上、腕をとらえて門外に押出すといつた実力行使にでていること」

を認定されながら、これを

「使用者側の甘受すべき限度を越えたものとはいい難い。」

と判断されたことは誤りであつて承服し難い。この誤りは原決定が

「組合のストライキ中といえども、使用者たる会社が組合の統制外にある従来の従業員を使用してその操業を続行することは、それが著しい協約違反又は信義則に反する行為と認められない限り権利の行使として許されなければならない。一方組合においても、これに対し集団的ピケッティングによりストライキ中の会社の操業に関与してくる者に対し言論により説得乃至団結による示威の方法によつてこれを阻止し会社の業務運営に打撃を加えることは、これまた組合に与えられた争議権行使の正当な範囲に属し、またその範囲に止まることが好ましいことはいうまでもないが、実際上右の如き単純な説得、団結の示威のみでは殆んどその効果を期待し難い争議の現状よりすれば、右説得・示威に止まらず、その補助手段として必要な最少限度の有形力の行使を絶対に排斥するものでなく、争議という力の対抗関係に照し、社会観念上使用者側も忍受するのが相当であると考えられる程度のものであれば、これを違法視して仮処分の保護を求めるに値しないものというべきである。」

とされる論に胚胎する。

ピケッティングの限界についての右の論には承服し難い。

「争議という力の対抗関係に照し」云々と言われ、争議が腕力の対抗関係を意味するかの如く解される。争議は力関係であるとよく言われるが、その力関係とは労使双方の闘争についての資金、士気、持久力等を指して謂われるのであつて腕力の意味で謂われるのではない、腕力の意味で謂われるのならば結局法の保護は期待できず、自力救済に返らざるを得ないことになる。その不当なること言をまたない。

説得・示威の補助手段としての有形力の行使を、社会観念上使用者側が忍受するのが相当であると考えられる程度のものはこれを忍受すべきであるとされるが、使用者が暴力団を用いてピケ破りを企てる等の特異の場合に有形力の行使の許される場合があるとの趣旨ならば格別、一般的に有形力の行使を是認される趣旨ならば承服し難い。労働者側が腕力に於て使用者側に優ることは一般的である。有形力の行使を認容するならば、原決定も認められる使用者の操業続行の権利は、名のみであつて実を伴わず、右に与えて左に奪う結果となる。

原決定の右の一般論が特殊の場合に通用するとしても、本件にこれを適用されることは誤りも甚しい。

本件に於ては組合員四五名、非組合員三九名である。会社は新たな臨時雇入により操業しようとしているのではなく、従来からの従業員で組合に加入していない者により一部の操業を為そうとしているのである。ピケッティングの限界について或程度の有形力の行使を適法なりと主張される所謂進歩的学者さえ、かかる従来からの非組合員たる従業員に対する実力行使は許されないものとされるのが一般である。

原決定は上記認定事実を「単なる平和的説得、団結の示威という観点よりすれば、いずれもその限度を越えた行為」であるとされながら、「会社が工場長指揮のもとに非組合員による集団的なピケ突破を企て」とか「組合員は工場入口で強力にこれを阻止せざるを得なくなり」とか洵に奇妙な文言がこれに続いて結局「使用者側の甘受すべき限度を越えたものとはいい難い」と結論される。原決定を読み進むと会社が組合員の感情を不当に刺戟する言動があつたとして、「工場長の指揮下に非組合員の集団的なピケ突破が企てられた」「会社代表者自ら大門を開放するためピケ隊の矢面に立つた」等が挙げられて居り、また、「ストライキ中は、会社が非組合員を使用して操業を続行するとしても、非組合員が一部組合員の職場を代置するという不当行為に出でざるを得ない」とか「ストライキ妨害」「操業の自由」というような文言が出てくる。これ等を総合すると、原決定は、ピケッティングによる会社の操業阻止という正当な権利があり、会社が操業せんとする行動はこれに対する侵害として不当なりと考えていられるかの如くである。

誤りも甚しいと謂うの他ない。

原決定も認められる如くストライキ中と雖も会社は操業を継続する権利がある。従つて操業せんがために工場長が非組合員を引きつれて工場内に入ろうとすることは当然の権利であり、又社長が非組合員を入場せしめんとして大門を開放しようとすることも亦当然の権利である。

何故それが不当なのであろうか。会社側の右操業を実力をもつて阻止する組合の行為こそ違法なのである。

「非組合員が一部組合員の職場を代置するという不当行為」と謂われるが、職場代置が何故不当なのであろうか。組合員がストライキに入つた場合、部長が輪転機を動かすというが如く、残る労働力で能う限りの効果を挙げようとすることは使用者が操業継続の権利を有する以上当然のことである。所謂スキヤッブ防止条項が労働協約に規定されている場合でもそれは新たな雇入、請負等を対象とするのが例であつて、職場代置は許される。職場代置をも禁ずる協約条項があつて始めて職場代置は不当なものとなる。本件の場合には組合と会社の間に労働協約は存しない。然るにこれを「不当行為」なりとされる。吾人の理解能力の外にあると謂うの他ない。

二、原決定は仮処分の必要性を否定されたが、それは組合の争議権、会社の操業継続の権利についての誤断に由来するものと考えられる。

(一) 原決定は、組合のとつた非組合員の就業阻止の実力行使は、会社の「不当」な刺戟に誘発されたものとし(それが「不当」でないことは前述の通り)、会社が操業を継続しようとすれば「不当」な職場代置に出でざるを得ないとし(それが「不当」でないことも前述の通り)、さて操業したとしてもその「能率、利益に多くの期待ができず」、「非組合員の入場強行が直接争議の場を失わしめ、ストライキ妨害の結果をもたらし」、「組合の切崩し」となり「組合の団結権に回復し難い程の致命的打撃を与える危険性が強い」から必要性を認めるに足りないとされる。悉く誤つた判断と考える。

組合の就業阻止という実力行使は違法であり、会社は「不当行為」としてでなく適法な権利の行使として操業可能であり、操業した場合には、全員による操業と同様の能率、利益は期待できないが、一部操業としての能率、利益は期待できる。一部操業はあくまで一部操業であつて、全員による操業でないから組合がストライキを解いて全員就業する場合のような能率、利益を期待できないのは当然のことであり、そこにストライキの効果が存する。会社が非組合員を入場せしめて一部操業をしたからといつて、それが争議の場を失わしめストライキ妨害の結果をもたらすということはない。「争議の場を失わしめ」とは会社の操業阻止ができなくなることを指称されるのであろうか、「ストライキ妨害」とは何を意味されるのであろうか、暴力団による組合員に対する就労強制というようなことが考えられるが、会社はそんなことをしようとしているわけではない。組合の争議権は本来自己の統制下にある集団的な労務提供拒否によつて会社の業務運営に打撃を加えることを目的とするものであり、会社が非組合員によつて操業することを妨げる権利を含むものではない。会社が操業することは、ストライキの妨害ではなく、権利の行使である。原決定はストライキとは会社の操業を妨げる権利として解していられるのであろうか。

操業可能な程度の非組合員の存する場合に会社が非組合員によつて操業を継続することはその権利であり、組合の争議権はこれを阻止するところまで及び得ない。とすれば、会社が非組合員によつて操業した場合に、そのことによつて、若し組合員中脱落者(原決定のいう「組合の切崩し」「スト破り」とはこれを指すのであろう)が出て、組合の団結にひびが入つたとしても、それは組合がストライキに入るときから予見しなければならないことであり、自ら招いたことと謂わねばならず、その脱落が会社の働らきかけによるものでない限りは、組合に於て甘受せねばならないところである。操業は会社の権利である。しかし操業は組合の団結にひびを入らせるおそれがある。だから操業してはならない。その操業を保護しないというのでは、操業の権利を認めないに帰する。不当な判断というの他ない。

本件に於けるが如き妨害が許されるとすれば、会社は(1)組合の要求をそのままのむか、或は(2)暴力団等の援助を得て操業するか、(3)坐して企業の壊滅を待つかの三途しかない。(2)は法の認めない自力救済に返ることになり(3)を強いることは憲法第二十九条に反するものと謂うべく、企業が生きんがために(1)の途をとるとせんか、それは「争議権偏重」以外の何ものでもない。

(二) 約三〇名の現場担当の非組合員によつて十分一部操業できること、注文は現在操業不能のため他え委託しているが操業可能となれば何時でも返つてくることは原審に於て疎明したところである。

(三) 「本件争議が職階制採用えの対抗手段としての性格を帯びている」とされる点は誤りである。職制を規定したのは、原審で主張疎明したように現場の指揮命令の流れを規整すること考課の公平を期することを目的としたもので、昭和三十一年五月であつた。これによつて組合を脱退した者は五名に過ぎなかつた。部長、課長、副課長、係長を定めたが、これは組合員資格とは無関係であり、現に組合長は係長であり、書記長は副課長である。組合員が漸減したのは全体として従業員数が減つたこと、組合の動きに対する批判的空気からと察せられる。右職制採用えの対抗手段としてユニオン・ショップの要求を提出するのならば、これまでに既に提出されているはずである。三十二年春のベースアップ闘争、三十二年暮の越年資金闘争の際何れも半日程のストライキに入るような事態にまで立ち至つたが、それ等の粉争に際してユニオン・ショップの要求は提出されていない。現在組合員四五名中妻帯者は僅か数名にとどまりその他はすべて弱年の独身者である子供が玩具を与えられたように、事ある毎にストライキに入る組合の態度に、心ある成年者は、意見を異にして、次々に脱退して行つたのが真相であるらしい(それが正しい態度であつたか否かは別として)。本件ストライキ突入後も、四月二十六日、二十九日、五月二日、十日、十三日、十五日、十九日、二十日、二十七日と連続して団交を持ち、自主的解決えの努力を為した。深夜に及ぶこと多く徹夜になつたこともあつた。此の交渉において、ベースアップ七百三十円、解決金四、五〇〇円の他ユニオン・ショップ条項については会社から、現在の非組合員が組合に入るように組合と会社は努力すること、将来雇入れられるものは組合員とすること、労働協約を二ケ月以内に締結すること、非組合員の範囲はその際協議すること等の提案をした程であつて、会社は決して組合の弱体化を企図しているわけではない。しかしながらユニオン・ショップを結ぶにはそれだけの素地が必要であり、無理なユニオン・ショップの締結は総体的な労務管理の面に於てマイナスであるので、先ずその素地の醸成を会社は主張しているわけである。

(四) 「日時の経過に伴い、次第にピケ隊の態度は一般的に平穏となり、入場を迫る非組合員の数が減少しつつあることも加はつて、スト突入の当初見られたようなピケ隊と非組合員との間の緊迫感は徐々に薄らいでいる」とされるが五月十日以後も今日に至るまで、非組合員(事務部門を除く)は全員工場前にて入場を要求しこれを阻止されていることは同様であつて、ただ四月二十八日、二十九日のような事態を繰返すことは組合員による就業阻止に会うこと明白であり、その繰返しは早期解決えの害になつても益にはならないと考えられ、又怪我人の発生等も憂慮されるので会社に於てこれをさし控えて居たに過ぎない。現に六月二十三日午前九時過ぎ、始業時に非組合員三十数名が会社門前に到り入門を要求し押し合いをしたがついに押し返されて入門ができなかつた。会社としては法の保護の下に非組合員による一部操業を期待しているわけである。

三、会社役員、取引関係者の出入、業務の執行、物品の搬出入等に対する妨害の禁止を申請している点についてその危険性無しとされるが、非組合員入場の際その工場へ入ることを阻止し、門外え押出した組合の態度から推して、会社が非組合員による操業を始めた場合には会社役員、取引関係者等に対して、法の保護の無い限り強力な妨害を為すであろうことは洵に明白と考えられる。現在その妨害が無いからとて操業開始の場合にも妨害が行われないとは考えられず、寧ろ操業の場合には必ず妨害が行われるであろうことは明白である。非組合員の出入り操業が保護されても、会社役員、取引関係者の出入等が妨害されれば会社としての操業は成立ち得ないのでその禁止を求める次第である。

四、会社は五月十四日組合に対しロックアウトを通告して一定場所以外えの立入を禁ずる旨通告した。施設の管理権は会社に在り、ストライキ中と雖も此のことは何等異ることなく、また組合員は平常就労する場合に会社の黙示の許諾の下に立入つているもので、組合員として当然に立入の権利を有するものではない。私物の持出し等については必要に際し会社の許諾を得て立入れば足る。現在の如く常時構内に立入つている状態では非組合員による一部操業が開始された場合に、妨害、暴行等のおこる虞が強いのでその禁止を求める。

五、このような誤謬にみちた決定が大阪地方裁判所の仮処分係から出されたことは洵に悲しむべき現実である。

その誤りを正され、速やかに申請の趣旨の仮処分決定を仰ぎ度く、右上申する。

第二抗告理由書

一、原決定は昭和三十一年四月頃には殆ど全従業員が組合に加入していたとされるが、疎甲二十二号証に明らかな通り、当時の従業員は総数一〇六名、内組合員八二名で、非組合員は二四名であつた。

二、原決定は昭和三十一年五月職階制を採用したため多数の組合脱退者を生んだとされるが、疎甲二十二号証に明らかな通り、当時の組合脱退者は五名に過ぎない。その内部課長は三名に過ぎない。

三、原決定は公休出勤制度の廃止問題、配置転換問題、賃金問題、時差出勤制度の採用問題、年末一時金要求等に際し部課長等が組合と対立的な態度に出たことを以て職階制採用が組合切崩しのための工作であり、組合の団結力弱化をはかる意図が内在していたとされるが、職階制採用により組合を脱退した部課長は三名に過ぎないこと。部課長総数十一名中八名は前から非組合員であつたこと、会社側の者として組合との粉争に際し会社側の意見に即して行動するのは当然であること等から見て、職階制の採用を以て組合の弱化をはかるものと観られることは当らない。労働組合ができた途端に職制が乱れたので職場秩序を維持せんがために設けたものであることはさきの上申書にも述べた通りである(甲十五号証御参照)。

原決定は構内入場を迫つてピケ隊と直接交渉に当つた非組合員の主力が職階制採用とあい前後して組合を脱退した部課長等によつて占められているとされ、これを会社の、組合団結力弱化意図のあらはれと観られるかの如くであるが、職階制採用により組合を脱退した部課長は僅かに三名に過ぎないことは上述の通りであり、部課長の大部分は職階制採用以前からの非組合員である。而して部課長が先頭に立つて入場せんとすることは当然のことであり、一般非組合員に対するピケよりも部課長に対するピケの方が違法性が強いとされている。かかる当然の行動が何故に組合の実力行使を妥当とする仮処分による保護に値しないという判断の資料になるのであろうか。ユニオンショップ協定の締結を要求項目の一とする本件争議が職階制採用への対抗手段としての性格を帯びていると認定されたことがそもそも誤りであることはさきの上申書に述べた通りであつて、ユニオンショップの要求は職階制採用とか会社の組合弱化意図に対抗せんとするものでなく、組合自体の在り方の誤りからだんだん細つて行くのを一気に恢復せんが為め、更にはその枠のもとに更に尖鋭な非民主的な闘争を為さんがための要求であると考えられる。このことは団体交渉において、労働組合が停年の延長を要求する現在の趨勢に反して、現在停年制のない申請会社に対して停年五十五歳を要求して老年者を企業から排除せんとする態度からも窺はれる。

四、原決定は「腕をとらえて門外に押出すといつた実力行使にでている」と認定されながら、「両者もみ合いになつたとはいえ、極力非組合員の説得に意を用い、自発的な退去を促しながら連れ出したのであつて、(然らざることは疎甲十四、十六、十七、十九乃至二十一、二十四号証)とうてい暴力沙汰とはいえない状況であり」「使用者側の甘受すべき」ものとされる。しかしながら本件申請はもとより刑事責任の問題ではない。争議行為における刑事有責の一例としての「暴力」(組合法一条二項)の有無の如きは問題ではない。ピケの正当な限界を超える実力行使に出ていることは原決定も認められるところである。それは違法な争議行為であり、申請会社に対する業務妨害である。現在も強力なピケにより非組合員の入場を実力をもつて阻止していることはさきの上申書に記述した通りである。(疎甲三十一乃至三十五、四十乃至四十六、検甲二乃至八)

五、「労使間の紛争は自主的解決を本旨とするものである」ことは原決定の謂はるる通りである。しかしながら違法な争議行為の行はれているときにその違法な点だけを速やかにチェックするのが司法権の役目である。自主的解決を期待して、「日時の経過に伴い」「スト突入の当初見られたようなピケ隊と非組合員との間の緊迫感は除々に薄らいでいる」というような理由が却下の理由となるのでは司法権の有名無実を恐しまざるを得ない。労働争議は生き物である。同時にそれは労使双方にとり又社会にとつて一つの不経済であるが故に如何なる場合にも早期解決が望ましい。争議行為の当、不当についての司法権による判定をまたずに争議が解決することが多い。その故に違法な争議行為があたかも適法なるかの如く錯覚され、繰返されて、争議における秩序の確立が期待し難い。迅速性は争議事件において特に要請せらるべきものと考えられる。速やかに、仮処分命令を仰ぎ度く、右上申する。

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